入間田宣夫・小林真人・斉藤利男編『北の内海世界―北奥羽・蝦夷ヶ島と地域諸集団―』山川出版社,1999年。
津軽海峡が、明治以来”しょっぱい川”といわれたことに象徴されるような、人びとの行き来を妨げる障害ではなく、むしろ「海の道」を通じて、南北両地域の人びとの交流を積極的に媒介するものであったこと、海峡の南北は異なる世界ではなく、そこに住む住人の構成の上でも、彼らの営む社会的・経済的・文化的活動の上でも、さらに、この地に形成された政治的社会の上でも、緊密な結びつきをもつ一体の世界としてとらえるべきである(中略)津軽海峡を挟んで向かい合う南北両側の地域をあわせて、一つの「世界」として見るべきではないか。北海道の道南地方と本州の津軽・糠部、さらに隣接する秋田・久慈・閉伊地方も加えた「津軽海峡周辺」地域を、「海の道」を通じて様々な人びとが日常的に行き来する「北の内海世界」として、積極的にとらえるべきである。そして、この地域こそ、そこに住む社会諸集団の活発な活動や、彼らと中央世界との太い結びつき、さらに社会の激しい流動性によって、中世北方世界全体の「活力」を生み出す中心的な地域となっていたのではないか。
はじめに pp.ii~iii
目次
はじめに 斉藤利男
第1部 「北の内海世界」の発見
北緯40度以北の10~12世紀 斉藤利男
はじめに
1 北の環濠集落・高地性集落の登場―北緯40度以北の新たな時代
2 北の環濠集落・高地性集落の出現をどうみるか
3 北の文化・北の民族集団の形成―「戦争の時代」をもたらしたもの
4 10~12世紀の東北アジア世界と日本国
5 「北の内海世界」の14~15世紀
糠部・閉伊・夷が島の海民集団と諸大名 入間田宣夫
はじめに
1 鎌倉時代の安藤氏
2 十三湊安藤氏の滅亡
3 南部氏によって擁立された安東太師季
4 戦国争乱の始まり
5 夷が島に渡海した糠部田名部の浪人衆
6 津軽に進出した久慈・閉伊の海上勢力
むすびにかえて
北海道の戦国時代と中世アイヌ民族の社会と文化 小林真人
はじめに
1 北海道の戦国時代
2 中世アイヌ民族の社会と文化
おわりに
第2部 「北の内海世界」における国家・民族と文化接触・文化変容
防御性集落の時代をどうみるか―南からの力・北からの力 古代文献史学の側からの試論 小口雅史
はじめに
1 防御性集落誕生前史
2 防御性集落の時代
3 防御性集落の消滅
4 北の方形土城の系譜
蝦夷・北奥と本願寺教団 誉田慶信
はじめに
1 夷浄願寺と蝦夷
2 北の海の有徳人
3 本願寺教団・秋田湊安藤家・室町幕府
4 アイヌ民族と本願寺教団
結びにかえて―北方史と歴史教育
「みちのく」像の光と影―その宗教史的アプローチ 佐々木馨
1 課題の所在
2 道南和人地の「みちのく」化
3 蝦夷地直轄と「和人地=みちのく」像の破綻
4 結びにかえて―アイヌの宗教観
北の「倭寇的状況」とその拡大 中村和之
はじめに
1 サハリンの擦文土器と骨嵬
2 元・明朝の交代と北の「倭寇的状況」の拡大
おわりにかえて
討論のまとめ 長谷厳
はじめに
1 津軽海峡をはさむ地域の変動と防御性集落
2 中世北方世界における地域権力の動向について
3 北方「地域」の形成をめぐって
4 歴史教育における北方地域史の位相
おわりに
<付論>授業化への一試み―「参加記」にかえて 相庭達也
あとがき 西村喜憲
コメント